大判例

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松山地方裁判所 昭和52年(ヨ)61号

債権者

上田繁

上田守

右訴訟代理人弁護士

東俊一

津村健太郎

三好泰祐

債務者

エヒメ合板工業株式会社

右代表者代表取締役

河野幸男

右訴訟代理人弁護士

真木啓明

南健夫

主文

1  債権者両名が債務者の従業員たる地位にあることを仮に定める。

2  債務者は債権者両名に対し、各金一八万五、七〇〇円及び、昭和五二年四月以降本案判決確定に至るまで毎月二五日限り、債務者上田繁に対して金一五万三、五九九円、債権者上田守に対して金一七万二、二六〇円の各金員を仮に支払え。

3  訴訟費用は債務者の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  債権者ら

主文と同旨。

二  債務者

1  本件仮処分申請はいずれもこれを却下する。

2  訴訟費用は債権者らの負担とする。

第二当事者の主張

一  債権者―申請の理由

1  当事者

債務者は合板製造並びに加工販売等を目的とする株式会社である。

債権者上田繁(以下たんに繁ということもある)は昭和四五年一二月に、債権者上田守(以下たんに守ということもある)は同年一一月に、それぞれ債務者に雇傭され、以来その製造課従業員として勤務していたものである。

2  懲戒解雇の意思表示

債務者は債権者らに対し、昭和五二年三月二二日、債権者らを懲戒解雇する旨の意思表示をし、以後従業員として処遇しない。

右懲戒解雇(以下本件懲戒解雇という)の理由は、債権者らが昭和五二年二月二日午後七時すぎころ、申請外大塚修、同宝田登両名に対し暴行を加え誹謗をなしたことが就業規則第一一一条第七号(他人に対し暴行、脅迫を加え、又はその業務を妨害した者)、第八号(みだりに会社の職制を中傷し、又は誹謗し、或いはこの指示に従わず、若しくはこれに反抗した者)、第一三号(会社の信用、体面又は名誉を著しく失うような行為を行った者)に該当するというものである。

3  本件懲戒解雇の無効

しかしながら、本件懲戒解雇は次の理由により無効である。

(一) 債権者らによる労働組合の結成と、債務者による第二組合の育成

債権者ら債務者会社従業員は、賃金がいわゆる日給月給制で、しかも低額であることその他労働条件の悪さに耐えかねて、労働組合の結成を企図し、昭和四六年四月、総評全国一般労組松山支部エヒメ合板分会(以下分会という)を結成した。

債権者繁は、右分会結成に際して中心的役割を果たし、結成後は初代分会長に就任して現在に至っており、分会の中心となって活動して来ている。

債権者守は、分会結成当時からの組合員であり、役員にはなってないが、一貫して組合活動をして来たものである。

右分会結成直後の昭和四六年五月ころ、第二組合であるエヒメ合板工業労働組合(以下合板労組という)が結成され、債務者は、同労組を育成してきた。

ちなみに現在、係長、係長補佐、班長、班長補佐の役職者全員三二名が同労組に加入している。

(二) 債務者による分会切崩しと分会長繁に対する攻撃

分会はその結成以来、賃上げ、夏期・年末一時金支給・完全月給制実施などを要求し、労働者の利益を守る闘いを進めてきた。

これに対し、債務者は、様々な攻撃をかけて来た。即ち分会結成当時一〇数名であった役職者が年々増員され、現在では約四〇名にまで及んでいるが、(なお役職者とは班長補佐、班長、係長補佐、係長、課長などであり、月給制で手当も付くので、従業員の多くが昇格を希望しているものである)債務者は、分会の月給制実施要求を拒否し、また賃上げ、一時金支給等の要求も抑える一方で、右のように役職者を増員して来たのであり、しかも、分会員は一名もこれに昇格させないという差別的取扱いをしている。また分会員に対し種々の分会脱退工作を行っているが、分会長繁に対しては昭和四六年五月ころ、債務者会社副社長鶴居において、繁を酒席に招いたうえ「二つある組合を全国一般でない組合に一本化してくれないか」とか「現場から事務に上がって労務の仕事をやらないか」とかもちかけて、その組合活動を阻害しようとした事実がある。

(三) 宝田による分会への中傷、分断工作とそれに対する組合の対応

宝田はもと分会員であったが、昭和五〇年四月に脱退して合板労組に加入した。そして、同年五月の春闘で分会がストを行った際などに分会を繰り返し誹謗し、また、昭和五一年一一月ころには、分会員に対し「わしが二〇万でも三〇万でも使ってお前を全国一般から脱退させてやる。子供の就職もできんぞ。」などと言って、脱退を図るなど、分会と分会員に対する異常ともいえる言動を繰り返して来た。そこで、昭和五一年一一月、分会長である繁と副分会長とが宝田に対し右発言の真偽をただしたところ、同人はこれを否定した。

また、当時、宝田は、通勤のために会社の通勤バスを利用しはじめていたが(同人は分会脱退後は、その利用者の殆んどが分会員である通勤バスの利用をやめて、同じく分会脱退者である藤淵某の車に便乗して通勤していたが、藤淵とも仲違いして、再び通勤バスを利用するようになっていたものである)、分会員の中に宝田の前記の言動に対する抗議の声が強いので、分会は、宝田を通勤バスに乗せるなら昼食交替勤務を拒否する旨債務者に通告した。

そして、分会は、債務者に対して、宝田の前記言動に関する事実関係を明らかにすることを求め、これに基づいて、債務者会社中村部長、分会長、宝田の三者による話合いが持たれた際、宝田は、分会員に対する脱退工作の事実を認めて謝罪し、以後そのようなことはしない旨約し、債務者も以後そのようなことのないよう責任を持つ旨約束した。

その結果、分会は昼食交替勤務拒否を解き、一方、宝田も同年一二月初めころ、通勤バスの中で、分会員に対し「今後そのようなことはしないので許して欲しい」旨謝罪した。

(四) 通勤バス内での紛争の発生

昭和五二年一月二五日、債務者は、ただでさえ多い役職者をさらに一名増員した。役職者増員に関する債務者の態度は、前記(二)において述べたとおりであり、分会は、これに抗議して同年二月一日から昼食交替勤務を拒否する旨債務者に通告した。ところが二月二日、切削班の職場において、大塚係長が「特に会社に協力的でない者は残業せんでもええ」と言って、分会員全員の残業を拒否し帰宅させるという事態が発生した。

繁は、その報告を受けたので、同日残業終了後、通勤バス内で運転手として乗務していた大塚係長にその発言の真偽をただしたところ、同係長は、当初否定していたが、最後にこれを認めた。

ところで、宝田は、前(三)項に述べた通り一旦謝罪していたにもかかわらず、依然分会や繁に対する誹謗・中傷を繰り返していたので、繁は、その後、後の座席にいた宝田に対し「宝田さん、あんたはよるとさわるとわしの悪口を言っておるというが、どうして言うんか。」と言ったところ、大声で「言うとれへんが」とどなり返して来た。繁は、「お前はいつも始めにそう言うては、最後には『言いました』と言うのが、今迄の経過じゃろが」などと反論し口論が続いた。そうした時、運転手をしていた大塚係長は、車を止めて立ち上がり「見ているからやってみい」などと宝田をけしかけるようなことを大声で言った。それで、宝田も勢いづいたのか、大声でわめきながら繁に対し手を振り上げて来たので、繁は、宝田の口を封じるため手を出した。繁の右平手の方が一瞬早く宝田の左頬にあたった。次いで、再び口を封じるため平手で同人の口を押えた。周りにいた者が口々に「やめ、やめ」と言ったので口論は続いたが、その後は騒ぎがおさまった。

繁と宝田が口論を始めたとき、守は、前方の座席にいたが、宝田が守に対しても大声でどなって来たので、宝田のところへ行って制止しようとしたところ、宝田がなおも暴言を続けるので、その作業衣の胸ぐらをつかんだ。宝田も守の胸ぐらをつかんで来たが、殴打するなどはせず、その場はそれでやめて、守は自分の座席に戻った。騒ぎがおさまった後、宝田は、座席に座って煙草をすったりしながら全く平常と変わらない様子であった。繁と守は双海町上灘灘町と小網でそれぞれバスを降りたが、宝田は、その後自宅のある上灘日尾野で下車した。その際バスを運転していた大塚係長はわざわざバスから降りて宝田と二、三分間何事かを話し合っていた。(以上のバス内での紛争を、以下本件紛争という)

(五) 突然の宝田の入院と債務者の異常な態度

宝田は、二月二日午後九時頃、松山市内、野本病院に入院し、入院時、同人は吐き気、目まい、難聴を訴えたようである。しかし、これは極めて疑問である。繁の右手が宝田の左頬と口の辺りに当たったことは事実であるが、前述のとおり平手であるうえ、強く殴打したものではなかったし、騒ぎがおさまった後の同人の態度も全く平常と変わらなかったのであり、このことは多くの人が現認している。また、翌二月三日の医師のレントゲン撮影などによる所見でも、病的所見は全くなく、医師も本人の訴えがあるので、二、三日様子を見てみることにしたという程度であった。

これに加えて、債務者の本件トラブルに対する対応は極めて異常であった。二日夜勤の者の話しによると、その夜、会社では、羽藤係長などが、「宝田が怪我をした。二、三か月は入院しなければならない」などと言っていた。翌三日朝の朝礼では、渡部課長が「昨夜マイクロバス内で紛争が起こり、宝田さんが怪我をした。怪我はひどく、頭蓋骨に一五センチ位のひびが入っている。三週間位の入院が必要だ」などと実態と大巾に違った説明を従業員に対して行っている。また、医師の所見は前述のとおりであったのに、債務者会社の者が病院に行き、医師に「一週間位は入院させてくれ」とことさらに入院を要請し、宝田本人ともども入院期間を引き延ばした事実もある。警察や債権者の代理の者の問い合わせがあり、刑事事件や懲戒処分に関わる問題であることを知った医師は、二月八日宝田を強制的に退院させたという状況であった。

(六) その後の事情

その後、債務者は、二月五日債権者両名を呼び出し、二月七日からの自宅待機を命じたが、その際にも債権者等から事情聴取をしなかった。また、全国一般松山支部による自宅待機の期限を明らかにせよとの要求にも明確に答えないまま、松山労働基準監督署に対し二月二四日付で債権者両名を懲戒解雇にするについての解雇予告除外認定申請をなした。そして、右申請は同監督署から不認定となったが、債務者は三月二二日本件懲戒解雇処分をなすに至ったものである。この間、分会は、債務者に対し本件紛争並びに本件懲戒解雇についての団体交渉を申入れていたが、債務者はこれを拒否しつづけた。そこで、分会が愛媛地方労働委員会に調停の申立てをしたところ、四月五日に至って、債務者はこれに応じるとして和解が成立したものである。しかし、本件懲戒解雇についてはこれを撤回するなど誠実な態度を見せてない。

以上述べたように、本件解雇は、債権者両名の分会長あるいは分会組合員としての活動を嫌悪し、極めてささいな紛争を口実にして債権者らを会社から排除しようとしてなされたものであり、労働組合法七条一号に該当する不当労働行為であって無効である。仮にそうでないとしても、怪我もなく極めて軽微なトラブルを殊更に取り上げ、それを理由に懲戒解雇したことは、処分事由と処分の均衡を著しく失するものであり、解雇権の濫用であって無効である。

4  債権者両名の賃金債権

債権者両名が、昭和五二年四月以降支給され得たはずの賃金(月額)は上田繁一五万三、五九九円、上田守一七万二、二六〇円、同じく一時金はそれぞれ一八万五、七〇〇円であり、その内訳、計算方法は別紙(略)のとおりである。

5  保全の必要性

そこで、債権者両名は債務者に対し、解雇無効確認等請求の本案訴訟を提起すべく準備中であるが、債権者両名は債務者より支払いを受ける賃金によって生活しているので、本案判決を待っていたのでは、債権者両名及びその家族は極めて大きい経済的精神的苦痛を被ることとなる。

6  結論

よって債権者両名は債務者に対し、地位の保全並びに、債権者両名に対し各金一八万五、七〇〇円及び昭和五二年四月以降本案判決確定に至るまで毎月二五日限り、債権者繁に対し金一五万三、五九九円、債権者守に対し金一七万二、二六〇円の各金員を仮に支払うことを求めて本申請に及んだ。

二  債務者

1  申請の理由に対する答弁

(一) 申請の理由1の事実は認める。

(二) 同2の事実は認める。

(三) 同3の懲戒解雇無効の主張は、後記2に債務者が主張する限度において認め、その余は争う。

(四) 同4の事実のうち、基本給、家族手当、住宅手当及び皆勤手当の額並びに残業割増賃金、深夜残業割増賃金、深夜割増賃金の計算方法がそれぞれ債権者両名主張のとおりであることは認めるが、残業割増賃金、深夜残業割増賃金及び深夜割増賃金が賃金に含まれるとの主張は争う。

(五) 同5の主張は争う。

2  債務者の主張

(一) 本件紛争の真相

債権者両名は、昭和五二年二月二日午後七時過ぎころ、債務者所有の従業員送迎用バスに乗車して帰路についたが、同バスが伊予郡松前町北川原の県道を進行中、同バスに乗車し帰路についていた大塚修及び宝田登の両名に対し、以下の暴力を加え口汚なくののしった。

(1) 送迎バスが、同日午後七時三分、会社を出発して間もなく、債権者ら及び上田勝らは、同日昼勤残業者の指名について、大塚が「今後の残業は必要不可欠の場合に限って行ってもらい、その人選については作業能率の良い者を選びたい」旨述べたことに対して、交々「おまえが言うたろうが」、「どういうことか」、「係長が何ぞ」、「わしらの小使いじゃないか」、「新海のこともあるので、一ぺんは殴ってもかまわん」などと、激昂のうえ暴言を吐いて侮蔑し、よって、会社の方針に基づいて右指示を行った大塚に対し威迫し、会社の方針を根拠なくして誹謗した。

(2) さらに激昂興奮した債権者両名は、これと何ら関係のない同乗の宝田に対し、共同して「お前は寄るとさわると悪口を言うとるが」などと言って言いがかりをつけ、宝田がこれを否定すると、同人の胸倉をつかんで座席から通路に引きずり出し、なおも車外に引きずり出そうとした。このため、宝田が座席にしがみつき必死に抵抗したところ、両名はしがみついている宝田に対し、その顔面を手拳で乱打し、押す突くなどの暴行を加え、よって、同人に一〇日間の入院加療を要する頭部打撲の傷害を負わせた。

(二) 本件懲戒解雇をなした理由

右のような債権者両名の行為は、職場の規律と安全を直接侵害するものであり、対話と協調を基礎とする従業員仲間の規律を暴力によって犯したものである。このため、合板労組から、債権者両名に対する厳正な処分を求める要求があり、これを行わない場合はストをも辞さない旨の通告を受けるに至った。のみならず、本件傷害事件は警察の取調べを受けるところとなって、債務者の信用と名誉は著しく毀損された。

よって、債務者は、就業規則第一一一条第七号、第八号、第一三号に基づき、本件懲戒解雇を行ったものである。(なお、大塚は債務者合板部製造課切削係長であり、債権者両名の直接ではないが上司であり、右就業規則第一一一条第八号にいう職制にあたる。)

(三) 本件懲戒解雇の効力

本件懲戒解雇は、(1)平等待遇の原則(2)罪刑法定の原則(3)不遡及の原則(4)個人責任の原則(5)相当性の原則(6)手続における正義の原則(7)不当労働行為禁止の原則に適合し有効である。

(1) 平等待遇の原則

この原則は、同じ規律に同じ程度に違反した場合に、これに対する制裁の種類・程度が異なることは許されず、時を異にしている場合は先例が後の制裁を拘束するということである。

債務者においては、昭和五〇年六月ころ、債務者事業所内において西岡勇と大山義夫とが些細なことから口論となり、西岡勇が箒で大山義夫を叩くという事件が発生した。その際、分会長である繁は、右事件につき紛争の実態を調査し西岡勇の処分を検討していた債務者に対して、「職場の内外を問わず、暴力は絶対に許してはならず、暴力を行使した者は、その理由の何たるかを問わず職場から追放すべきであり、もし、債務者において西岡勇を追放しないときには、分会は争議をも辞さない」という趣旨の申入れをなして、西岡勇の職場追放を迫った。そこで、債務者においても、暴力はその理由のいかんを問わず否定されなければならず、また就業規則にも暴力行為が懲戒処分の理由として定められていることを考慮し、厳正にこれを適用して西岡勇を職場から追放したものである。本件懲戒解雇は、右西岡勇の解雇の経過に照らし、平等待遇の原則に合致する。

(2) 罪刑法定の原則

この原則は、一定の行為が職場規律に触れること及びそれに対して一定の制裁が加えられることが、就業規則に明記されていることが要請されるということである。昭和四九年改定の債務者就業規則第一一一条第七号、第八号、第一三号には懲戒解雇事由として債権者ら主張のとおりの規定があるので、前述のとおり右規定に基づきなされた本件懲戒解雇は、罪刑法定の原則に合致する。

(3) 不遡及の原則

債務者の就業規則が不遡及の原則に触れるものでないことは明らかである。

(4) 個人責任の原則

この原則は、懲戒処分は、善意無過失の者に対しては加えられるべきものではなく、また常に自己の行為についてのみ加えられるべきであるということである。債権者両名は前述のとおり、宝田に対し一方的に言いがかりをつけて、無抵抗の同人に対して、共謀して暴行脅迫を加え、かつ、大塚に対し誹謗攻撃を加えたものであり、また、これらの行為は債権者両名自らがなしたものであるから、その責任は債権者両名において負うことこそこの原則に合致するものである。

(5) 相当性の原則

この原則は、懲戒処分は規律違反の種類程度に応じて相当のものでなければならず、かつ右相当性の判定は一応使用者に委ねられてはいるものの、懲戒規定に数段階の懲戒方法が定められている場合、その選択は客観的に妥当なものでなければならないというものであり、従ってまた選択された懲戒処分が規律違反の種類程度に比し著しく重い場合は無効であるという原則である。

(イ) 債権者繁は分会長という地位にあるものである以上、分会員を統率、指導するとともに債務者との関係では、定められた就業規則並びに、債務者と分会との間に成立した協定・協約・合意事項につき、その成文化の有無を問わずこれを遵守し、もって職場の秩序を保持すべき責任を負うものであり、その責任は、他の分会員、従業員以上に重いものがある。従って、仮に繁の分会長としての行動につき、あるいは分会自体の組織行動につき、他から批判、非難があった場合には、繁としてはそれがどのようなものであれ、これをじっくりと聞き、納得できない事柄については討議、討論、話し合い等をなして、民主主義の根本理念に基づいた解決を図るべきである。これは小学生でも知っていることであり、繁においても当然承知していなければならないところの義務である。同人は現にそれを知っていたのであり、だからこそ、前記西岡勇の暴行事件の際には、前述のとおり暴力否定の正論を盾に厳しい処分を債務者に求め、その正論を押し通したのである。繁の実弟である守においても、以上の条理はそのままあてはまることである。

にもかかわらず、繁は、帰路についた従業員送迎用バスが会社を出るや否や、他の分会員から聞いたという理由のみで、多数の従業員の生命身体の安全を任されてそのバスを運転していた、かつは係長でもある大塚に対し、いきなり「協力的な者のみに時間外労働をさすとはどういうことぞ」と大声で怒鳴り、さらに言訳する同人に対し「係長が何ぞ」とか、「特に協力的な者と言うとろうが」等と口汚なくののしった揚句、大塚が運転の安全のため、やむなく繁の言い分を認めると、今度は只黙って坐っていた宝田に対し「分会の悪口を言うとろうが」と言いがかりをつけたうえ、「言ってはいない」と言う宝田の弁解には耳も貸すことなく、逆に激昂してその頭部を殴打する等の乱暴を加えたのである。一方、守は、このような繁の行動を弟として、また第三者として制止すべきであるのに、しかも右紛争が自分には直接何らの関係もないのに、繁を制止するどころかやにわに激昂して、宝田を殴打し、或いは胸倉を取って小突き、揚句には「引きずり下ろして轢き殺して仕舞え」等と叫ぶという行動に出たのである。

なお、懲戒処分の対象となる暴行・脅迫は事業場内におけるものに限られるとの説もあるが、債権者両名の右暴行脅迫は従業員が出退勤のために毎日利用し、従業員によって運行されている従業員送迎用バス内でなされたものであるから、右にいう事業場内におけるものに該当する。

(ロ) その後、宝田が所属する同盟系の合板労組からは債務者に対し、「債権者両名を解雇しなければ争議も辞さない」旨の強硬な申入れがなされ、本件紛争を原因として、職場内の秩序は大きく揺れ動くに至ったのである。

(ハ) 債権者両名は、他人が同種の行為をしたのに対しては、正論を以て厳しく当たり、決して妥協を許さないのに、自分がその立場に立ったとたん、百論を以て自己弁明に努め、かえって、その非が全て被害者宝田にあって自分たちこそ受難者であると叫んだ揚句には、本件懲戒解雇が不当労働行為に該る等と会社を非難するのであるが、債権者両名のこのような態度に自己の非を認めるところは片鱗すら伺えない。

以上の事実を考えれば、本件懲戒解雇は相当性の原則に合致する。

(6) 手続における正義の原則

就業規則には、制裁に関する手続規定はない。しかし、債務者においては事案の真相を関係人から聴取してこれを把握し、かつ、処分内容についても債権者両名を有給で自宅待機としたうえで、先例等諸般の事情を考慮して、本件懲戒解雇を慎重に決したものである。以上の理由により本件懲戒解雇は有効なものである。

(四) 結論

よって債務者は債権者らの申請を却下することこそ、法の正義と秩序の維持に沿うものであると思料する。

第三疎明関係(略)

理由

一  争いのない事実

申請の理由1、2の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  本件紛争に至る経過

(証拠略)を総合すると次の事実が認められる。

1  債権者両名の組合活動及び分会と債務者との関係

債権者両名を含む債務者会社の従業員は、賃金その他の労働条件改善のため、昭和四六年四月分会を結成した。繁は右分会の結成に当たって中心的な役割を果たし、結成後は初代の分会長に就任し、現在までその地位にあって活動してきた。守は右結成以来一分会員としてやはり組合活動を行ってきたものである。

そして分会は、あるいは一部日給月給制から完全月給制への移行、賃上げ、一時金支給など労働条件の改善を、あるいは役職者の昇格に伴う分会員に対する差別、分会員に対する脱退工作などの債務者の不当労働行為の有無をめぐって、その結成以来債務者と対立することが多かった。

また、前記分会結成直後の昭和四六年五月ごろには、分会とは別に合板労組が組織された。

2  債権者両名、分会と宝田との関係

宝田は昭和四六年一月債務者会社に入社して今日まで、製造課切削係所属の従業員として勤務しているものである。

宝田は入社後一度は分会に所属していたが、分会や分会長に対する不満を理由に昭和五〇年四月ごろ分会を脱退し、ついで合板労組に加入した。

その後宝田は、分会が昭和五〇年に行ったいわゆる春闘におけるストライキについて、「ストライキのやり方が悪い」などと右分会の活動を批判したとして、分会から抗議を受けたことがあり、翌五一年一一月ごろには当時分会員であった徳田みどりに対しては「金を二〇万、三〇万使っても分会を脱退させてやる」と、また同じく分会員である古田一男の女婿に対しては「分会に入っていると子供の就職もできんぞ」などといったとして、分会員から強い反発を受けた。

そこで分会長であった繁と和田副分会長から宝田に対して、右発言の有無を尋ねたが、当初宝田はこれを否定していた。しかし、分会が右発言の真相究明と債務者の宝田に対する善処方を求めた結果もたれることとなった話合いの席上、宝田は同人が前記発言をしたことを概ね認め、今後かかる言動を慎しむことを約束し、その場に同席していた当時債務者会社の総務部長であった中村時夫は分会長繁に対して、債務者においても善処することを約した。さらには、宝田は、債務者会社が従業員の出退社用に運行していた通勤バスの中で分会員に対し右発言の件に関し謝意を表した。

とはいうものの、それ以後も分会と宝田との間には従前の経過から感情的なわだかまりが完全に払拭されたわけではなかった。

3  切削係における残業員決定方式の変更

分会は役職についていない従業員の賃金をいわゆる日給月給制から完全月給制に改めることを要求して、昭和五二年二月一日から昼食時の交替勤務を拒否する争議行為を行った。

ところが、切削係の係長であった大塚は翌二日の午後三時ごろ同係の従業員を職場に集合させて、これからは残業をする者は係長か班長から指名することとすると申し渡した(以下指名制という)。

これまでは、同係では当日の午後三時までに残業の希望を申し出た者が残業をすることとなっており(以下申告制という)、右大塚の申し渡しはこれを一方的に変更することになるので、その場に居合わせた分会書記長北福は大塚に対し、「残業員の指名は公平に行うのか」とただしたところ、大塚は、「指名は片寄ることもありうる。平等に行きわたるかどうかはわからない。」と答えたため、北福がさらにその理由を聞くと、大塚は「会社に協力的でない者には残業を頼まない」という趣旨の返答をした。

そして、当日は切削係に配属されている分会員には残業の指名はなく、以後右指名制は昭和五二年四月末まで実施され、この間切削係にいる分会員の残業時間は従来の申告制で運用されていた当時に比べ激減した。

なお、右四月に開かれた債務者と分会との団体交渉の結果、債務者は右指名制を撤回し、そののちは従前どおり申告制によって残業員の決定がなされている。

以上の事実が認められ、反証はない。また右認定の大塚と北福のやりとりの際、大塚が残業を頼む者として、「特に」会社に協力的な者というふうに「特に」という発言をしたことについては、(証拠略)中、前記認定に反する部分は措信できず、他にこれを認めうる証拠はない。

三  本件債権者両名の行為とその結果

(証拠略)を総合すると次の事実が認められる。

1  前の一、3認定のように大塚係長が残業員決定について指名制を実施することを告げた昭和五二年二月二日、昼勤者の残業終了後である午後七時すぎころ、右大塚運転の通勤バスが債権者両名、宝田(同人は前認定のように一時止めていたのを昭和五一年一一月ごろから再び乗車するようになった)、それに数名の分会員を乗せて債務者の工場を出発した。

出発後まもなく、運転席から三つ後席にいた繁は、その席からバスを運転中の大塚に対して、同日大塚がいった指名制への変更に関する発言について「切削係の者に『特に会社に協力的でない者には残業を依頼しない』といったそうだが、『特に』とはどういうことか」とただしたが、大塚が『特に』とはいっていないと答えたことから、両名は口論をはじめ、同乗者のうちの数人は繁に応援をするありさまであった。しかし、繁が右発言を分会員から聞いたというのに対し、大塚も「それならそう言ったかも知れない」と渋々認めたところで、ひとまず口論は終った。そしてこの間大塚は運転をつづけ、とりたてて、右口論が運転の支障となったものではない。

2  ところで、宝田は昭和五〇年一一月ごろ前二、2認定のように謝罪したときに、繁らに対し今後三、四か月は残業をしないといっていたのに、右当日も残業していたことを心よく思っていなかった繁は、右大塚との間が納った直後、すぐ後の席に座っている宝田に対して「あんたは、よるとさわるとわしの悪口を言うとるようだが、どういうことなのか」、「お前は、いつも初めは言わんといいながら、最後には言ったことを認める。それがこれまでの経過じゃろうが」、「他の者からお前が悪口を言っていると聞いている」などと、これらを否定しつづける宝田を詰問し、両者は激しく言い争っていたが、繁は思い余って、突如自席から後の宝田の方を振り向きざまに座席越しに右手で宝田の左頬を、つづいて口の周辺を各一回づつ殴打した。

3  他方、前の座席で繁と宝田の右口論を聞いていた守は宝田に対して「お前はまた言わんというのか」と怒鳴り、宝田が「お前こそわしを殺してやると言うたじゃないか」と言い返すのを聞くや否や、自席から立って宝田の傍に行き、大声で言い合ったが、他の分会員に制止され一度は前へ帰った。しかし、なおも宝田との応酬は納まらず、守は程なく再び宝田の側に行ってこれを続け、その際激昂して宝田の胸倉をつかんだが、上田俊一らの制止があって、この程度で終った。

右の繁つづいて守と宝田との争いは数分間の出来事であった。

4  右のような債権者両名の宝田に対する言動は、宝田が前二、2で認定した謝罪後もなお繁や分会に対する中傷を繰り返しているとして、まずその事実を認めるよう迫ったものであるが、右中傷の事実の有無については債権者両名は従業員からこれを伝え聞いたというにすぎず、中傷の具体的内容、回数なども正確に把握していたわけでもなく、多分に感情的なものであった。

5  右争いののち、宝田は双海町の自宅附近で下車するまでの間自席に座り、黙って煙草を吸うなどしており、一度「目が痛いから中田病院のところで下ろしてくれ」と大塚にいった他は特に異常な様子も見られなかった。また右宝田の求めに対しても、大塚はそれが強い希望でもないし、その後同人が目を閉じて眠っているようでもあったことから、バスを止めなかった。

宝田は、同日夜九時ごろ松山市内の野本病院で当直医師の診察を受けて入院した。宝田は当初吐気、目まい、難聴を訴えていたが、翌三日同病院医師河野光雄の所見ではレントゲン単純撮影にも異常はなく、病的所見は一切見られなかった。そこで同医師は宝田に「二、三日様子をみるぐらいでいい」と伝え、一応一〇日間の加療を要する頭部打撲症の診断を下した。

6  債権者両名の前記宝田に対する暴行の事実は、宝田が右野本病院へ赴いた際、偶々別事件の関係で同病院に来合わせていた警察官の知るところとなり、債権者両名その他の関係者は同月四日ころ伊予警察署において取調べを受けた。

以上の事実が認められ、証人大塚修、同宝田登の各証言及び債権者両名の各本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に比照してたやすく措信できない。

四  本件懲戒解雇事由の該当性及び解雇の相当性

1  前認定事実によりまず大塚に対する債権者繁の言動についてみるに、大塚が切削係の従業員に告げた残業に関する指名制への変更は右従業員らにとっては重要な労働条件の変更であり、とりわけ前日から争議に入った分会員にとっては、右指名制が同人らに不利益に取扱われはしないかと危惧するのは至極もっともなことであり、加えて、大塚は「会社に協力的でない者には依頼しない」などと言ったのであるから、分会員の不安が一層募ったであろうことは推測に難くない。かかる事情のもとに繁と大塚との口論が起こったこと、またその内容から見て、繁は大塚に対する言動がその場所、措辞において適切であったか否かは別として、大塚の右発言に抗議し、釈明要求をしているものであって、職制たる大塚を中傷、誹謗し、当然服すべき職制の指示に反抗したものではなく、就業規則一一一条八号に当たらないことは明らかであり、右言動はバスを運転中(業務遂行中)の大塚に対してなされたものであるが、その時間は短かく、この間大塚も運転をつづけていたもので、バスの運行にさしたる障害や危険を及ぼしていないことと、右繁の言動の動機、目的を併せ考えれば、右事実をもって右規則一一一条七号に該当するともいい難い。

2  債務者は本件懲戒解雇につき適用した就業規則の条号として一一一条一三号(会社の信用、体面又は名誉を著しく失うような行為を行った者)を挙げるが、これは対外的信用等の失墜をいうものであるところ、前三の認定事実のうち、これに関して検討の対象となるのは6の事実のみである。しかしこれとても警察の取調べは前認定の程度であり、その段階で本件解雇処分がなされているものである。そしてその後さらに進んで捜査ないし訴追に関する処分がなされたことを認めうる証拠はなく、他方後に認定するごとく、債務者会社内ではこれまでも、犯罪捜査を受けないだけで、この種の暴行事件がなかったわけでもないことなどを彼此勘案すると、右事実をもって就業規則一一一条一三号にいう会社の体面又は名誉を著しく失うような行為とは到底いえない。

3  ついで、債権者両名の宝田に対する前認定の言動についてみるに、右言動は明らかに宝田に対する暴行であり、このような行為がその動機、目的が何であれ、これを正当化するものでないことは自明の理であり、かてて加えて宝田に対し同人が繁や分会に対する中傷をしたとの事実の自白を迫ったのも、分会員からの伝聞事実を何らの調査をしないまま軽信し、冷静さを失って右暴行に及んだというのであってみれば、右行為は批判の対象たるを免れまい。

しかし、前認定の債権者両名の宝田に対し暴行に及んだ動機、各暴行の程度、それが偶発的なものであること、債権者両名が、既往においてこの種の暴力行為に及んだことを認めうる証拠もないことを総合すると、右暴行をもって(債権者守については、その程度からみて一層)前出就業規則一一一条七号に形式的には該当するとしても、解雇をもって債務者会社から放逐しなければならない程度、性質のものとはいえず、したがって債務者が債権者両名に対してなした本件懲戒解雇処分は極度に相当性を欠くものといわざるをえない。

4  なお債務者は昭和五〇年六月ごろ発生した従業員西岡勇の暴行事件について、当時分会なかんずく分会長繁は債務者に西岡の懲戒解雇を強く迫ったことがあり、止むなく債務者は西岡を解雇したが、これとの均衡上も本件処分は当然である旨主張するが、(人証略)によれば右西岡の暴行事件とは勤務時間中の職場において職務にたずさわっていた従業員の頭部(ヘルメット着用)を竹箒で殴打したものであり、それに対する処分も諭旨解雇であって、本件とは事案を異にする。他方右各証言によれば債務者会社では他に数件の暴行事件が発生しているが、いずれも懲戒解雇に処せられてはいないことが認められる。したがって西岡の暴行事件の処理との均衡をいう債務者の主張自体失当であり、右処理について繁や分会の態度をもって本件処分の情状とすることも十分な妥当性を有しない。また合板労組からの債権者両名に対する解雇要求があったとしても、債務者において、これを考慮しなければならない必要はもとよりないことは多言を要しない(このことは西岡問題について分会の解雇要求に応じる必要のなかったことにもいえる)。

5  却って(証拠略)を総合すると(1)宝田が前認定のように野本病院に入院中医師が二、三日様子をみるぐらいでいいと言ったのに対して、債務者会社の者は医師に一週間ぐらい入院させてほしいと申し入れていること、(2)前認定のバス内での暴行があった翌日である二月三日には、切削係の朝礼の場で渡辺課長は従業員に対し、右暴行によって宝田が頭骸骨に一〇数センチメートルのひびの入る重傷を負った旨、ことさらに結果の重大性を示すべく虚偽の事実を述べたこと、(3)債務者は二月五日には債権者両名から初めて前記暴行事件について事情聴取を行ったが、これに先立って既に右両名に対する自宅待機命令書を作成携行していたこと、(4)右事情聴取の他債務者は、宝田、松下進、大塚からそれぞれ同様に事情聴取を行ったが、宝田、大塚の供述とその余の者とそれとの間には食い違いがあったにもかかわらず、債権者両名に対しては右一度の聴取を行った(時間は各三〇分程度)のみで、紛争の一方の当事者である宝田、大塚の供述をそのまま認めて本件処分を行ったこと、(5)本件処分は三月二二日になされたのであるが、債務者はその約一か月前の二月二四日にはすでに松山市労働基準監督署に債権者両名に関して解雇予告手当除外申請をしていること、以上の事実が認められ(人証略)のうち右認定に反する証言は前出証拠に照して即座に採用できない。

右認定事実に、前記三の1、ないし3認定のように繁と守では暴行の程度が明らかに異り、守は大塚に対しては何らの行為もないのに、本件処分には両者の間には何らの差等は設けられていないこと(それとも債務者は守の行った程度の暴行でそれのみで直ちに懲戒解雇が相当であると判断したのであろうか)、さらには前記二1認定の事実(債権者両名の組合活動及び分会と債務者の関係)これらを総合して考察すると、債務者は企業秩序維持という名目に藉口して、分会の中心的活動家である繁や結成以来の分会員である守の組合活動および分会そのものを嫌忌して本件暴行事件を契機に同人らを企業から排除せんとする専ら差別的意図のもとに本件処分を行ったものと推認できる。

6  してみると債務者の行った債権者両名に対する本件懲戒解雇処分は労働組合法七条一号に該当する違法なものであって、何らの効力を生ずるものではなく、債権者両名は右処分のない状態において現在債務者会社の従業員たる地位を有しているものであるというべきである。

五  債権者両名の賃金

債権者両名が本件懲戒解雇前に月々支払いを受けていた基本給、家族手当、住宅手当、皆勤手当の額及び、残業割増賃金、深夜残業割増賃金、深夜割増賃金(以下、割増賃金という)の計算方法がいずれも債権者主張のとおりであることについては当事者間に争いがないところ、債務者会社労使が昭和五二年六月一六日、男子基本給を月額一律七、三〇〇円、同年四月分に遡って引上げる旨合意したこと、並びに債務者が従業員に対し、昭和五二年度夏期一時金として債権者両名主張の計算方法に基づき算出される金員を支払ったことについては弁論の全趣旨によりこれを認めることができ、また(証拠略)によれば、債権者両名の本件懲戒解雇前三か月間の残業時間、深夜残業時間、深夜労働時間合計はそれぞれ両名主張のとおりであることが認められるとともに、右割増賃金並びに一時金が労働基準法にいう賃金であることは同法第一二条の規定に照らして明らかであるから、結局のところ、本件懲戒解雇がなければ債権者両名が支払いを受け得たであろうところの賃金は両名主張のとおり、昭和五二年度夏期一時金が各金一八万五、七〇〇円、月々の賃金が債権者繁において金一五万三、五九九円、債権者守において金一七万二、二六〇円であると認めるを相当とする。

六  保全の必要性

債権者両名が債務者より支払いを受け得たはずの賃金は、前に認定のとおりであり、本件懲戒解雇後両名が右賃金の支払いを受けていないことは当事者間に争いがない。これに債権者両名本人尋問の各結果を総合すれば、本件地位保全の仮処分の必要性は十分に認められ、また賃金仮払いについては、賃金の一定部分を仮払いから除外するのを相当とする特段の事情の疎明のない本件にあっては、前認定の得べかりし賃金全額につき、仮払い仮処分の必要性が認められる。

七  結論

以上の次第であるから、債権者両名の本件仮処分申請は、いずれも理由があるので、保証を立てさせないでこれを認容することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水地巌 裁判官 岩谷憲一 裁判官 岡部信也)

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